有色ホットの思い出 


音響(PA)の世界で、電気のプラス/マイナスを、
ホット/コールドと呼ぶ。

音響の世界では、
こういった電線をそのまま配線したり、
電線とコネクターなどをハンダ付けしたりする。

電線には様々なものがあるが、
概ね、一本の音響ケーブル(電線)の中に、
さらにビニールなどで覆われたいくつかの電線が入っていて、
それは大抵、色がついているものと、色がついていないものである。
写真では、電線の中に、白い電線と、青い電線が入っているのが見て取れると思う。
(さらに、写真上側にひげ状になっている電線も見て取れると思うが、これについては、ここでは割愛する。)
青と白、赤と白、青と黒、赤と黒など、
様々な電線があるが、概ね、
「色がついているものとついていないもの」である。

様々な人間が、様々な電線を、様々に配線する。
その配線が、コンサートや、TV番組の音響(PA)などでは、
数十~百ヶ所以上必要となる。
音響エンジニアたるもの、一ヶ所たりとも、ホットとコールドの配線を間違えてはならない。
間違えると、「逆相」といって、ミュージシャンや聴衆の耳に、気持ち悪い音が届いてしまうのだ。

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ここで予備知識をいくつかはさむ。
・1980年代、PA業界では、まだまだ“先輩には絶対服従”の徒弟制度的習慣が残っていた。(いまどうなっているのか、私は、もはや知らない。)
・私は1980年代、ある会社に就職し、そこでPA業務を行なう部署に配属された。
・私が当時就職した会社では、今の時代では決して考えられないような厳しい新入社員研修――もしも現代で同じことをやっていたら、その様子が録音され、ネット上などに公開されて、社会問題となるであろうような厳しい研修――が行われていた。
その研修の中で、私は、「どんなことがあっても先輩に逆らわず、従いつつ、喰らいついて、仕事を覚えていかなければならない。そのうえで、先輩が知らないことがあったなら、逆に、君たちが教えてあげなければならない。」と、念入りに、非常に厳しく、教育された。
・私は元々、コミュニケーション・スキルが低い人間なのだと思う。
助手というか、小間使い(当時の業界では“ぺーぺー”と呼ばれていた)として、機材運搬の車の助手席に座る。
車が角を曲がるときに、そのまま座っていると、
「角を曲がるときに身を乗り出して左方確認しようという、そういう心をお前は持っていないのか。やる気あんのか」
と延々となじる先輩がおられる。
そういうものかと学習して、別の日に、角を曲がる際に身を乗り出して左方を確認すると、
「お前の頭が邪魔で自分が左方を確認できない。人に迷惑をかけずに座ってることすら出来ないのか」
と厳しく責め立てる先輩がおられる。
どの先輩が身を乗り出すことを“後輩として、助手として、当然の行為”と思っていて、
どの先輩が身を乗り出すことを“考えられない無礼な行為”と思っておられるのか、
必死でメモを取ったりしたが、私は、とうとう、覚え切ることが、出来なかった。

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話を戻す。
大抵の音響ケーブルは、
内部に「色がついている電線」と、「色がついていない電線」が入っている。
これを、様々な人が、限られた時間に、決してホット/コールドを間違えずに、配線しなければならない。
そこで、よく決められている法則がある。
有色ホットの法則である。
色があるほうをホットとして配線すること。
青と白なら、青がホット。
赤と黒なら、赤がホット。
「有色ホットだ間違えんじゃねぇぞ」
といわれながら、色のあるほうをホットに繋いでゆく。

ここでひとつ、困った事がある。
会社で購入され、現場に支給されている電線の中には、
白と黒のケーブルがあるのだ。
白と黒のケーブルは、どちらがホットなのか。
世の中には、赤と白のケーブルがある。
世の中には、赤と黒のケーブルもある。
だから、黒と白、どちらがホットであるのか、
「有色ホットの法則」からは、導き出すことは出来ない。

一人の先輩に、気をつけの姿勢で、全身で緊張しながら、教えを、請う。
「教えて下さい!おねがいします!白と黒の場合!どちらがホットなのですか!」
「てめぇ本気で言ってんのか?」
「はい!」
「本当にわからねぇのか!?」
「はい!すいませんっ!教えて下さいっ!」
「有色ホットっつってっだろ?色がついてるのがホットなんだから、黒に決まってんだろ!?
「はい!ありがとうございます!」

別の現場で、別の先輩の下で、サウンドチェック中にモニタースピーカーを聴いて回って、明らかに“逆相”の気持ち悪い音が鳴っている。
「先輩!あっちとこっちが、逆相になってます!」
「あんだと?どれどれ‥コラ!てめぇこっち来い!これ見てみろ。これ、お前が繋いだもんだよなぁ?ホットに黒がささってっぞ?白黒だったら、白がホットに決まってっだろ!?

その会社では、白黒ケーブルのとき、どちらをホットにするかが、統一されていなかったのである。

これは、「トラックの助手席に座っているときに、角を曲がる際に身を乗り出すのは礼儀か、無礼か」よりも、さらに深刻な問題である。
トラックの助手席であれば、「絶対に従わなければならない先輩」は、運転手一人である。
ところが、コンサートやイベント会場、テレビ番組などの現場では、「黒がホットで当然」と思っている先輩と、「白がホットで当然」と思っている先輩が、
同時に一つの仕事をこなしている場合がある。
どちらに「どちらがホットでしょうかっ!」と気をつけの姿勢で訊いても、「何度も言わしてんじゃねぇぞ。白に決まってんだろ?」と「黒に決まってんだろ?一回言ったら覚えろよ!」の一点張りである。
そして、そのどちらにも、“ペーペー”は、「絶対に従わなければならない」。
その先輩二人が、「今年の新人はナマイキだなーまったくよー」と言いながら、並んでジュースを飲んでいる。
先輩達は、酒や競馬の話に夢中で、お互いがホットに関して見解が違うことに、気が付かないのだ。

新人研修で、経営陣から厳しく言われていたこと。
「どんなことがあっても、先輩に逆らってはならない。
しかし、先輩が知らないことがあったら、君たちが教えなくてはならない。
君たちは、どんなに困難でも、それを、やり遂げなければならない。」

泥まみれになってケーブルを配線しながら考え、
汗まみれになってスピーカーを担いで階段を昇りながら考え、
先輩のジュースやビールを買いに走りながら考え、
先輩の肩や腰を揉みながら考え、
考えに考え抜いて、ある日、ある現場で、一人の先輩に、
私は、大体、以下のように言ったと思う。
「すいませんっ!
有色ホットのとき!
黒がホットだという人と、
白がホットだという人がいるのです!
これでは、逆相になってしまうのです!
白と黒、どちらをホットにするか、決めなければならないのです!」
そう、私が渾身で叫んだ直後の、
先輩の顔が、忘れられない。

眼鏡の中が全部白目で埋め尽くされんばかりに目を見開き、
口を縦長になるまで大きく開き、
額に横じわができるまで眉をつり上げた、
驚きの表情。
それに続いての絶叫。
「おぁーい!新入りが逆らったぞぁーっ!」
そのあと、有色ホットは「白がホットであたりまえ」の先輩と、
「黒がホットであたりまえ」の先輩がこぞって、
私のことを、“かわいがって”くれた。

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何ヶ月かして、
「反転ケーブル」というものを覚えた。
現場に行くとき、ホットとコールドを逆にする、
「反転ケーブル」というものをこっそり持参するのである。
そしてセッティングのとき、逆相の音が聴こえたら、
「すいませんっ!どこかで逆相になってます!反転します!」
と手早く叫んで、手早く反転ケーブルをかませる。
そんな風にして、生きていた時期があった。

・「有色ホット」の法則にのっとるときは、白黒ケーブルはそもそも会社で購入すべきではない。
・購入してしまったのなら、白と黒のどちらがホットであるか、会社全体で統一しなければならない。さもないと、現場で、逆相の音が出る。

そのことを、その会社は、知らなかった。
教えても、“ペーペー”の言うことには、耳を貸さなかった。

だから、私が在籍して、反転ケーブルを使っていた数ヶ月間より以前と以後、
その会社は、ミュージシャンや聴衆に、しばしば逆相の音を提供し続けていたことになる。
今現在、その会社が、白黒のケーブルを現場に支給しているかどうか、支給しているなら、どちらをホットにするか決めているかどうか、私は、知らない。

以上は、1980年代の話である。
しかし、私が極限まで追い詰められ、考え抜き、
最終的に気をつけの姿勢で先輩に真実を告げたときに先輩が見せた、
眼鏡の中が全部白目で埋め尽くされんばかりに目を見開き、
口を縦長になるまで大きく開き、
額に横じわができるまで眉をつり上げた、
新人に逆らわれた、後輩に口答えされた、
想像を絶した小人物に想像を絶した侮辱を受けたという、
驚きと怒りに瞬間的に満たされた爆発的な表情を、
多少なりとも平静に、恐怖をあまり感じることなく、
思い出すことができるようになってきたのは、
ここ数年のことである。
追記/補足を読む

シンセの木枠を塗装 

先日購入したシンセの木枠を、
黒く、塗りました。
追記/補足を読む

名前のないシンセ 

機材寄りの話です。
正月早々、名前のないシンセを購入しました。



J.M.T SYNTH という、日本国内のメーカーさん(個人)のハンドメイド・シンセです。
知遇を得ているミュージシャン氏から、「お前に向いてそうなシンセが売られている」と連絡をいただき、仕様と画像を見て、すぐに購入を決定した次第です。
上記のメーカーさんのサイトや、購入したシンセサイザーの画像を見たときの、舟沢の率直な感想は、
「これが現役で売られている‥?」
「これが国内メーカーで売られている‥?」
「これが個人で作られている‥?」
「これがこんな安い値段で売られている‥?」
「このメーカーさんを俺が知らずにいた‥?」

という、深い驚きでありました。

これに関しては、基本的に「一品モノ」というか、
同じものを作るかどうか、これを書いている現時点では未定のようですし、
型番すら存在しませんので、
このシンセを紹介して誰かのお役に立つかどうか分かりませんが、
とりあえずざっと、書くだけ書いてみます。
尚、このシンセ、舟沢が購入した際の価格は、4万弱でした。
画像を見る限り、これ、欧米で作られて40万弱で売られていてもそんなにおかしくないように見えると思いますので、以下、一見辛口めいて書いてあるヶ所がありますが、「安さの理由」みたいな意味として読んで下さいませ。批判的な意図はありません。

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・パッチシンセというネーミングで売られていました。セミモジュラーというか、ある程度内部配線されているモジュラーシンセ一式が一枚パネルになっているものと思っていただいていいと思います。
・物凄くかっこいいパネルは、触ってみると金属っぽくありません。金属板に塗装しているのではなく、金属板にアクリルシールを貼ってあるようです。触った感じがとても意外で、「あれ?金属じゃないぞ?」と思ってしまいました。(ドライバーを使ってパネルを開けると、確かにアルミの板です)
・つまみは見ての通り金属製で、つまみの固さも非常にしっかりしています(やや固すぎると感じるくらい)。つまみに安っぽさは一切ありません。
・びっくりするほど軽いです。1キロちょっとというところでしょうか。
・セミモジュラーなのであたりまえといえばあたりまえですが、中途半端に大きいです。Amazonの箱にぴったり入りそうで入らない大きさ。持ち運びの利便性は考えられていません。ラックマウントも考えられていません。
・パネルを覆う木枠は、本当に未塗装のただの木枠です。底側も木の板で(スプールスの単板とのことです)、ゴム足が貼り付けてあります。
・DC9V~DC12Vのセンターマイナスアダプターで動くとのことです。付属してきたアダプターは12Vでした。(つまり、音の印象は12Vによるものです)
・MIDIはありせん。CV-GATEでコントロールします。
・電源スイッチが右の手元に位置し、場所的にちょっとしたはずみに間違えて押してしまわないかと不安になってしまいます。また、電源ON/OFF時にノイズが出ます。
・2VCO、1VCF、1LFO、1EG、ホワイトノイズ、S/Hといった構成です。
・VFOは2つともノコギリ波固定のようです。可聴帯域を1つのつまみで網羅しているので、ピッチは合わせづらいです。(fineつまみとか、帯域切り替えスイッチとかあればいいのにと思いました)
・フィルターは上のつまみがレゾナンスで、下のつまみがカットオフです。普通のシンセ(?)とは逆なので、さわるたびに「あれ?」って思います。(そのうち慣れるかもしれませんし、慣れないかもしれません。)
・カットオフのつまみも、効き出すポイントが普通のシンセとちょっと違ったカーブを描いています。閉じきったところから急激に開きだす部分があり、開ききる辺りはなだらかになっているイメージ。
・特筆すべきは独特なレゾナンスです。カットオフが不安定なのでしょうか、発振させると聴いたことのないピッチの揺らぎを伴うサイン波が出ます。この揺れ方をするサイン波は手持ちの他の機材では出せません。レゾナンスの発振というと「太い」というイメージがあるかもしれませんが、この発振はイメージ的に言うと「遠い」。なんだか「風の強い日に窓の外を聴いてる」みたいな、遠い音がします。(微かに発振するというわけではありません。はっきりと発振していて、質感が遠いイメージなのです。しいて言えばWASPのフィルターに近いですが、やっぱり「遠い」というのがいちばんしっくり来ます)
・ホワイトノイズも独特な遠さを持っています。
・エンベロープはアタック/リリースのみで出来ています。トグルスイッチでリピートできるので、LFOのような使い方もできますし、エンベロープをトリガーさせるスイッチも手元にありす。このエンベロープに「LEVEL」つまみがあり、VCAに「INITIAL GAIN」つまみがあるので、ドローン/ノイズ発生マシンとしては、けっこう融通が利く作りだと思います。
・LFOの変化幅は意外と狭く、最も遅いときに「ものすごく遅いヴィブラートくらい」、最も速いときに「FM寸前」というイメージでしょうか。LFOの波形は「三角波と矩形波の間を連続的に変化させるつまみ」がついていて、右に回しきると三角波(だと思う)、左に回すと矩形波になります。中間状態は、想像だと「矩形波がだんだんカドがとれて三角波」と思ってしまいますが、実際に使ってみると逆で、「三角波のカドがだんだん目立ってきて最終的に矩形波になる」ようなイメージです。この中間状態のカーブを脳内に描いてみようとするのですが、できません。紙にペンで「こんな感じのカーブになるのか?」と波形を書いてみたりするのですが、いまいち自信が持てません。とにかく中間状態では「ん?」と思う変わったLFOが出ます。
・S/H(サンプル・アンド・ホールド)は、単体では動きません。S/Hというと、すぐに「ギザギザしたランダム」だと思い、そのためには「あらかじめホワイトノイズをサンプルしてホールドしてるもの」と思いがちですが、そういった“通常の”S/Hを出すためには、ノイズジェネレーターのアウトをS/Hのインにパッチし、S/HのアウトをVCOなりなんなりにパッチしなければなりません。実際、LFOのアウトなどもS/Hにパッチすれば「キキキキココココ」と、「サンプルしてホールド」します。

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ざっと駆け足で書いて、こんな感じでしょうか。
以上、詳しい方が読んだらあたりまえのことや、間違っていることが書かれているかもしれませんが、どうかご容赦下さい。
舟沢、シンセ歴約三十年にして、
「はぁ‥これがモジュラーのパッチングというものなのか‥」
「はぁ‥CVとはこう使うものなのか‥」
「ははぁ‥いま思えばDOEPFER DARK ENERGY は、小さな筐体に色んな機能をうまいこと詰め込んであるのだな‥」

などと、基本の基本を学んでおります。

以上、万年初心者のレビューにて失礼いたしました。

前回のライブの機材の話の断片 

そもそも、機材寄りの話をすべきかどうか、
電気・電子機器を扱う音楽家は非常に悩みます。

アコースティックギターを弾き語る人は、
ギターが何十年同じであっても、
ギターが同じであることを、残念がられることは殆どありません。

ですが、電子音楽・電気音楽の場合、
同じものを使っていると、
「同じじゃないか」「またあの機材か」
と、落胆する人が現れる場合があります。

電子楽器・電気楽器を使い始めると、
どんな楽器・機材を使い、それをどう配線するか、
それが非常に重大な決断になってきますし、
アコースティック楽器のように、使い方がほぼ決定しているわけでもありません。
すべての電子楽器を自分に合っているかどうか試すことは実質できませんし、
そうなると他の楽器よりも“情報”がずっと重要な価値をもつようになります。
ですから、どうしても周囲とは、機材の話題ばかりになりがちなのです。
舟沢自身、他人のライブを拝見しても、
あのエフェクターはなんだろう、あのスピーカーはなんだろう、
あれとあれはどう配線してるんだろう、
あの楽器を支えている支柱はなんだろう、
そんなことを、しばしば考えます。
これは技術的側面の切実さから来る、
いわば職業病のようなものです。

そして、以下のような葛藤を抱えています。
・機材について話せば話すほど、機材に興味のある人にも自分の音楽に興味を持っていただくことができる。
・機材について公開することは、公益性が高い。(これはことのほか大きいことです)
・機材について公開すると、自分のノウハウも流出してしまう。
・機材について話しすぎると、機材に興味がない人は疎外感を感じてしまう。

そういうわけで、あまり機材のことは語りすぎないように、
もしも語るなら、機材にあまり興味がない方が読んでもある程度面白く読めるようにと考えているのですが、
なかなかに、難しいです。

前置きが長くなりました。

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まず、「機材の話ではないのです」という話から。
舟沢は、この「元型ドローン」というシリーズのライブの最中に、
皆様に対して伝えるのが適切だと判断したり、
或いは内的必然性を感じたりして、
何らかのしぐさを行なう場合がございます。
そのしぐさは、殆どの場合、ご来場頂いた皆様か、
あるいは“空間自体”に対して為されているものです。

「皆様がここに存在していること、それ自体が作用して、
いま空間がこのようになっており、
自分はそれにこのように感応して、
回路をこのように発振させている。
それに対して、会場に架かっている絵画がこのように変容をはじめており、
そのようなもろもろが生じているこの空間に居合わせる我々は、
いま、この方角に意識を向けるべきだと思うのです」


という方角を指差したりとか、
今こうしてたどたどしく文章化したような事柄に近いような、
一連の、しぐさです。
もちろん、皆様が“理解しなければならない”ものではないのですが、
舟沢のライブ中のしぐさは、
機材的な必要から行なわれていることは、
ほとんどないとお考えいただいて、構いません。
テルミンやD-beamのように、
人間のしぐさに感応する機材を、舟沢、使用しませんでした。
舟沢のしぐさと楽器・機材との関係に関心をもたれた方がおられましたが、
概ね以上のようなことであったと、ご承知置きくださいませ。

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元々、新しい機材よりは、使い込んだ機材でライブをしたいと常々考えている舟沢ですが、
前回のライブで、“駆け込み”で使用した、有意義なマシンをご紹介いたします。

まずは、monotron++、舟沢モデル。
舟沢はKORGのmonotronという安価な小型アナログシンセの音が好きなのですが、
ドローン(持続音)を出すのには向きません。
何とかライブに使えないかと、
リボンコントローラーを洗濯ばさみではさんでみたりしたのですが、
うまく安定しません。
「音が鳴りっぱなしにできれば何とかなるんだから、
リボンコントローラーをショートさせればいいんではないか」
と考え、分解してそれらしき場所をハンダでショートさせてみて、
1台、壊してしまったりもしていました。

monotronをMIDI化して、EGやパルスなどいくつかの機能を追加した、
改造版monotron「monotron++」を独自に販売なさっている、
武田元彦という方から、以前monotron++を購入してはいたのですが、
今回のために、急遽、さらにドローン発生専用マシンとして、
武田さまに、そのmonotron++をさらにカスタマイズしていただくことが出来ました。



Drone/onというスイッチが改造してくださった箇所で、
通常のmonotron++はこのスイッチがLFO/EGの切り替えスイッチになっています。
このDroneスイッチをonにすることで、音が鳴りっぱなしになります。
なんと元型ドローンライブに相応しい色にまでデザインし直して下さり、
全く急な話にもかかわらず、お忙しい中、夜なべして改造して下さいました。
この場を借りて、心より感謝申し上げます。

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それにしても、
何年やっても、「こんなことも知らないのか」ということは、減りません。
何年やっても、「こんなこともできないのか」ということは、減りません。
それでも、出来うることを探し、
やりうることは、やっていきます。
物事は、案外、そういうものかもしれません。

つり銭とバックアップ 

つり銭ひとつとってみても、
とても色々なことを考えなければならない。
料金千円の公演の場合、
大抵のお客さんは千円札だろうけれど、
1万円札を出すお客さんはいるだろうか。
いやしないさ、なんて考えるわけにはいかない。
いると考えれば、つり銭として最低9千円は持参しなければならない。
それは千円札9枚でいいのか。
つり銭が細かいのを怒るお客さんはいるだろうか。
5千円札も用意すべきか。
そもそも、2度連続で1万円を出すお客さんが来たらどうするか。

以前、ライブをやったとき、
考えた結果、確か、
「最初に2連続で1万円札のお客さんが来ても大丈夫なように」
とつり銭を組み立てて、
受付をやってくださる方にお渡ししたと記憶している。

開演前、精神統一している最中に、
なにやら舞台監督と受付さんが話している。
舞台監督がやってきて、
「舟沢。ほら、よーく、考えてごらん?
はいっ。最初に1万円のお客さんが来ましたー。
はいっ。次も1万円のお客さんが来ましたー。
はいっ。そのまた次も1万円のお客さんがきましたー。
さて。手元のお金で、おつり、渡せるかなー?」
ポケットの中に運よく5千円札や千円札で1万円あったので、
それを渡したら、去っていった。
なぜ受付さんや舞台監督が、
1万円札のお客さんが2人想定では危険で、
3人想定なら安心と考えたのか、
それは今でもわからない。
お客さんが1万円札で20人来る事だって、
数学的には起りうることだ。
どこかに想定ラインを引かなければならない。
想定ラインを上げればあげるほど、
持ち歩く現金はおかしくなっていく。

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公演のバックアップというのは、
どのくらいやるべきものだろう。

以前、舞台音響にノートパソコンを使用している人が、
CDプレーヤーを持ち込んでいて、
その中には「音響っぽいノイズ」が入っていて、
パソコンが本番中にフリーズしたら、
復帰するまでそのCDをかけておくのだ、
と笑っていたことがある。

大きなコンサートでは、
そっくり同じ曲が裏で同時に作動し、
演奏が止まったら咄嗟に演奏してるフリに切り替えて、
録音を流すようにしてある、ということもよくあるようだ。

さらに大きな、ドームでやるようなコンサートだと、
そのバックアップシステムは、
停電に備えて、持参した発電機で動かしていることもあるそうだ。

個人で公演をする際、
もちろん、発電機を持参することはできない。
どの程度のトラブルを想定するべきなのだろう。
とりわけ、PA(音響)システム。
小規模PAシステムの場合、
パワードミキサー+内臓エフェクター+スピーカー
という可搬システムがあるのを知った。
「それが壊れる」というのは想定すべきなのだろうか。

頭の中で複雑なパズルを行なう。
いや、複雑ではないのかもしれないが、
私にとっては十分に複雑である。



PAシステムのほかに、
キーボードアンプを買って、
それを持ち込むべきではないのか

そうすると、一人の人間が電車で運ぶ量ではなくなってしまうし、
狭い会場の音場も崩れがちになるぞ。

いや、2日に分けて持ち込めば何とかなるんではないか。

いやー、2日かけて機材を電車でピストン運搬、
搬出も2日かけることになるかー。

そもそも電源が抜けたら両方とも音が出なくなるではないか。
電源が抜けるトラブルって決して珍しいことではなくって、
若い頃音響をやってたころだって、
コンセントをガムテープを貼って抜けないように留めるときに、
「心を込めて貼れーっ!」
って先輩の皆さんに怒鳴られ続けたではないか。

あ、タップを別にすれば抜けるリスクも半分か。
でもケーブルは倍か。

会場の規模から考えて、コンセントは“心を込めて”ガムテで貼れば、
抜けても動くシステムは考えなくてもいいだろう。
PAシステムだけが動かないケースを、考えるべきだろうか?

そうか。PAシステムがトラブったときに、
手元のモニタースピーカーが鳴ってれば、
会場が狭ければそれでも音は成立するじゃないか。

あれ?配線考えたら、PAのセンドからモニタースピーカー
鳴らそうとしてるよな。これ、PAが壊れたら、
モニタースピーカーも鳴らなくなるじゃないか。
この配線じゃ意味無いぞ。

ああ、モニタースピーカーからパラアウトして、
PAに送ればいいのか。

あれ、それじゃミキサーが必要になって、
実質小規模PAが2系統まるまる必要になるのと
同じじゃないか。そんなもの電車で持ち運べないよ。

あ、もしかしてパラアウトを内蔵してるキーボードアンプ
とかあるのかな?それをモニターにすればリスク軽減できるかな?

あー。希望の大きさのものはパラアウト付いてなくって、
パラアウトつきのものはPAシステムとほとんど同じ大きさじゃないかー。

あれ、そもそもエフェクトをPAシステムに任せてたら
モニターはだめじゃないか

モニターだからエフェクトなしでもいいんじゃないのか?

いや、バックアップを兼ねてるわけだし、
会場が小さければ両方のエフェクトが揃ってないと
音場がますますおかしくなるぞ?

まてまて、そもそもPAシステムがダウンするリスクって、どのくらい?
経験したことがないぞ?
おれはただの心配性なのか?
今までの数少ないライブだって、
PAが壊れたことは一度もないぞ?

‥‥…

という終わらない思考の中にいる。
どこかで線を引いて、決断しなくちゃならない。

詳細近日。